臨界天のアズラーイール(フリー・ノベルゲーム)紹介・感想

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同人ノベルゲームサークル「→Quantize_」様制作のフリーのビジュアルノベルゲームです。
面白いという評判を色々なところで聞き、興味を持ったのでプレイしてみました。
とても楽しむことができたので、作品の紹介や感想を書こうと思います。
クリア時間は約4時間ほどだったと思います。

作品概要

主人公は、新社会人として、建設会社に就職することになった想田理人(そうだりひと)という青年です。
その会社で出会った教育係の長島麗美という女性に指導されながら、少しずつ仕事を覚えていきます。
しだいに単なる教育係の先輩としてではなく、女性として惹かれていくことになります。
仕事でも着実にステップアップして、少しずつ仕事を任されていくようになっていきます。
公私ともに順調な理人ですが、とある悪夢に悩まされるようになっていき、少しずつ現実にも影響を及ぼしていきます。
なぜ悪夢を見るようになったのか、悪夢の内容にはどういう意味があるのか、そのような謎で物語を牽引していきます。
以上が、本作の簡単なあらすじです。

ゲームとしては、選択肢が一つだけ存在しますが、ほとんど一本道のノベルゲームです。
複雑な選択肢などが存在するわけではないので、物語そのものに没頭できる作りです。

グラフィックや音楽は、有料ゲームと遜色ないレベルのものです。
特に音楽は非常に力が入っており、単なるBGMに留まらず、一つ一つのシーンを創出する重要なピースにまで感じられました。

作品紹介(ふわっとしたネタバレあり)

ノベルゲームのように、物語が作品の多くの要素を占めるようなゲームだと、どのように紹介すればいいのか、いつも迷ってしまいます。
なぜなら、良さを伝えようとすればするほど、物語の内容に言及せざるを得なくなり、結果的にネタバレを嫌うプレイヤーから嫌がられてしまうからです。
その辺りが、僕の紹介能力の限界だと思っています。
しかし何とか、内容に触れないように良かった点を伝えようとしてみます。

本作をプレイして終始感じたのは、物語のテンポの良さだと思います。
開始してしばらくは、日常的なパートから始まります。
しかしこのパートも、「既に日常となっている学校生活」のようなものではなく、「新しく会社に就職した新社会人生活」なので、既知のものではありません。
新しい環境に飛び込んでいく過程での「日常」パートなので、話が展開していく面白味があります。
初めての職場ですので、主人公も具体的にどういう仕事をするのかわかっていません。
その点において、主人公が置かれた状況とプレイヤーの目線が重なるので、一体感が得られやすいと感じました。

日常パートの展開に関しても、スムーズでテンポが良いです。
丁寧に描かれながらも決して冗長ではなく、必要なエピソードだけに削いでいた決断を感じました。
そのため、都合が良すぎるように感じる場面もありましたが、その部分でのリアリティを追及する作品でもないと思うので、全く問題はなかったと感じます。
そして日常パートとでありながらも、起承転結の「承」に繋がるように、不穏な要素が散りばめられています。

起承転結の「承」の部分では、日常から一転して、この作品の舞台設定が語られます。
ここまでに感じていた不穏な空気がここで一気に広がり、謎が解けつつも、容赦ない現実が突き付けられます。
ここまでが物語の前半部分であり、後半部分は「転」がメインに描写されていきます。
後半の展開は、前半とは違い明確な目的ができるため、物語はより強く流れていきます。
この先、どのような展開になるのだろうと、結末が気になって一気にプレイしてしまいます。

感想(ネタバレあり)

ここから先はネタバレを含んだ感想ですので、プレイの予定がある人はご注意ください。


とても楽しくプレイすることができました。
前半の順風満帆な人生から、一気に過酷な状況に変わり、強い喪失感に共感してしまいました。
主人公の残り日数が僅かしか残っていないのに、割とサクサク日数が進んでいくため、物語が進行している感がありました。

終始テンポが良く、ダレることなく読むことができました。
前項でも書きましたが、ご都合主義を排除して変にリアリティを入れてしまうと、物語の流れを失ってしまうことがあります。
その点、本作はその点を割り切って描いていたように感じられ、良かったなと思います。
教団から脱出する際、ちょうど嘱託医が来ている曜日だという点や、その嘱託医が理人の脱走に協力的である点などが、特にそう感じました。

登場人物については少ないものの、その分、みんなが魅力的でした。
麗美は嫌味がないタイプの良い女性でしたし、アズも生意気だが悪い奴ではないという感じでした。
変に捻ったりしていないキャラクターなので、素直に受け入れることができました。
思い出の中だけの存在だった沙百合が、その足取りを追うごとに、生きて存在する人間だと感じられるようになっていくのがが感じられました。
大人になった沙百合との会話が、本当に最後の最後だけなので、余計な言葉なく良かったと思います。
理人の言葉は、恋愛感情などはたぶんなく、純粋な感謝の気持ちだと感じられて綺麗でした。
百合の花言葉は、純粋・無垢などなので、沙百合に向けた相応しい言葉だったと思います。

細かい伏線がしっかり生かされている点にも、丁寧さが感じられました。
中華料理屋のポイントカードについてもそうですし、最後の火事からの脱出についてもそうです。
理想世界での仕事の経験があったからこそ、現実世界での脱出に繋がったわけなので、あの理想世界のことは決して無駄ではなかったと、物語においても証明されています。
選択肢で「肯定する」を選んだ意味があったのだと、裏付けされているように感じました。

個別の考察など(もちろんネタバレあり)

以下は、気になった部分について個別に書いていきます。
教団脱出時に、降旗さんが小型カメラを理人に託すエピソードは必要なのかなと思いました。
しかし最後をハッピーエンドで終わらせようと思うと、「理人は助かって良かったけど、教団で苦しんでいる人がまだいるんだよな・・・」となってしまうので、大団円ムードに水を差してしまいます。
そういう意味で、教団にしっかりと引導を渡すためにも、あのくだりは必要だったのだと思います。
あれほど苦労して集めた証拠を、理人にサクッと渡すことができるのは、なかなかのギャンブルだと思いますが、結果は大勝でした。

麗美とのデートで見に行った映画「夕刻の決意」の元ネタは、内容から推測するに「バタフライエフェクト」ではないかと思います。
いくつか違う点もありますが、類似する点が多いため、そうなのかなと思いました。
平行世界の話が出てきたり、火事の時にアズが「バタフライエフェクト」について話すので、何となくそう思いました。
僕は「バタフライエフェクト」が非常に好きなので、少し嬉しく感じます。

2020年3月27日追記公式HPのあとがきによると、やはり映画の元ネタは「バタフライエフェクト」だっだとのことでした。)

コナミのPS2ソフト「シャドウ・オブ・メモリーズ」とも似ている点があるので、そちらも混ざっているかもしれません。

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