硝子のハンマー(小説・貴志祐介)感想

前書き

僕が貴志祐介の作品を手に取ったのは、高校時代でした。
当時、角川ホラー文庫にハマりだしていた自分は、書店で「クリムゾンの迷宮」を手に取り、冒頭の面白さから購入しました。
当時、デスゲーム作品というものがほとんど認知されていない中で、緊張感と娯楽性が素晴らしく、感動を覚えた記憶があります。
ちょうど映画の「バトル・ロワイアル」が話題になっていたころです。
「クリムゾンの迷宮」が面白かったので、同じ作者の「天使の囀り」「青の炎」「黒い家」などに手を出していきました。
(黒い家は少し趣は異なりますが・・・)

ともかく、高校生時代の自分の中で「貴志祐介=面白い作品を書く人」という認識は固まっていきました。
近年も、映画化もされたサイコパス教師が主人公の「悪の教典」、アニメ化もされたSFホラー「新世界より」など、非常に面白い作品を生み出し続けています。
そんな中、今回読んだ「硝子のハンマー」は、真正面から推理小説を書いたという印象で、貴志祐介の作品としては、逆に新鮮な気持ちで読むことができました。

作品紹介

本作は、ざっくりと第一部と第二部に分かれています。
第一部はオーソドックスな展開です。
上場を控えた企業で社長の殺人事件が起き、犯人だとして逮捕された副社長から、主人公の弁護士・青砥純子に依頼があり、密室殺人の謎に挑むという内容です。
実際の探偵役は、青砥が協力を依頼する防犯コンサルタント・榎本径であると言えます。

榎本の豊富な防犯知識は、読んでいて非常に勉強になりますし、また怖くもあります。

おそらく榎本の本業は泥棒であり、クレバーな性格と飄々とした佇まいは、アウトローな魅力に溢れています。
弁護士の青砥純子は、知的で正義感に溢れる人物ながら、少し天然なところもあります。
しかし突拍子もない思い付きが、榎本にヒントを与えることもあったりするので、相性が悪そうながらも良い関係なのが見所だと感じます。

第二部は、いきなり犯人目線での物語となります。

犯人の生い立ちから始まり、犯行に至るまでの動機や殺害方法の閃きなど、ドキュメンタリーのように描写されています。
犯人目線から事件を見ると、どうしても犯人に感情移入してしまうため、探偵役である青砥と榎本が嫌らしく感じてしまいます。
実質、第二部が回答編と言えるわけですが、探偵役に長々と推理させるわけではなく、犯人目線から描写することで細かい点まで説明されます。
一冊で両方の視点から事件を見られるため、なかなか面白いと思います。

ネタバレ感想

総合的には、とても面白かったです。
トリックも独創的なものでしたし、防犯に関するエピソードやガラスの話、ゴンドラの話など、綿密な取材に基づいて書かれているので勉強になりました。

第一部では青砥と榎本が、密室を解く方法を考えては失敗を繰り返すので、スマートな名探偵はいないというリアリティさを感じます。
最後に真相と思える方法が出てきたものの実は違い、第一部ラストで「本当に真相がわかった!」というところで前半が終わるので、謎が解けそうで解けないアンチ・ミステリなのかなと驚いてしまいました。
前半・後半に分かれているとは知らなかったので、第二部が始まったとき、全く別の話なのかなと思ってしまいました。

犯行へ至る経緯は同情をしますが、客観的に見れば、お金欲しさに計画的に殺人を行った犯罪者でしかありません。
榎本も、人を殺してさえいなければ、ダイヤの山分けで手を打ったという発言をしています。
おそらく泥棒である榎本にとって、通常の犯罪行為は許せても、殺人という行為だけは認められないのでしょう。
殺人行為に関しては、明確に一線を引いているように感じました。

最後の、ルピナスVの開発者である岩切のセリフが印象に残っています。
介護という目的のために作られたロボットが、人を殺すために動かされたとき、「もしロボットに心があれば、泣いていただろうと思います」というセリフです。
人を傷つけないように、あらゆる角度からセーフティが掛けられているというのに、人間の悪意によって殺人の道具になってしまうのは、人間の罪深さを浮き彫りにしているように感じられました。

今回の青砥&榎本コンビは、シリーズものとして次の作品もあるようなので、ちょっと読んでみようかなという気になりました。

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