死神の精度(小説・伊坂幸太郎)感想

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本記事では、伊坂幸太郎の「死神の精度」を読んだ感想を書きますが、関係ない内容もかなり書いています。
ご注意ください。

前書き

少し前に転職をしてから、車通勤ではなく電車通勤に変わりました。
電車通勤の良いところは、電車に乗っている間は、好きなことが出来るということです。
車通勤だと、読書をしたりスマホをいじったりすることはできず、せいぜい音楽やラジオを聴くことくらいしかできません。

車通勤の際は通勤に15分ほどしかかかりませんでしたが、電車通勤だと1時間ほどかかります。
それだけ聞くと非常にマイナスに聞こえるかもしれませんが、家でやっていることを通勤中にやるようにすれば、それほど自分の時間が減ったとは感じません。
僕の場合、結婚してから家で読書をすることが少なくなりました。
そのため、電車通勤になることで、読書する機会が増えるので、悪いこととは思っていません。

とはいえ、その電車が満員電車だと、本を読むスペースもなく、体力を消耗するだけの空間となってしまいます。
電車という輸送箱の中にぎゅうぎゅうに詰められ、時間・体力・精神力のすべてを消耗します。
幸い、出勤時間が少し早いこともあり、今の通勤経路はそこまで満員ではありません。
この点、非常に恵まれたと思っています。

伊坂幸太郎の作品との出会い

僕の場合、読書をするのは、朝の電車が多いです。
帰宅の電車の中では、スマホで夕方のニュースなどのチェックをすることが多いですが、朝は朝食時にスマホのチェックをしてしまいます。
したがって、行きの電車の中ではスマホでやることがあまりない状態になっているのです。

伊坂幸太郎の作品で初めて読んだのは、「オーデュボンの祈り」です。
読んだのはここ数年のことですが、基本的には発表順に読むようにしてしまいます。
最初に受けた印象は、「読みやすい文章で、登場人物がやたら含蓄に富んだ内容を話す作品」という印象でした。
ライトノベルほど軽くなく、純文学ほど重くもない文章は、朝に読むにはちょうど良い内容でした。
ご都合主義な展開もありますが、エンターテイメントとしてはその方が気持ちよく、娯楽性が強い印象です。

「死神の精度」の感想

「死神の精度」は、数日後に死ぬ予定の人物を、主人公の死神が調査し、「可」か「見送り」かを判断して報告するという短編集です。
一話完結ではありますが、主人公が同一なので、内容的にはつながっています。
個々のエピソードの感想については、あまり細かくは書きません。
「恋愛で死神」は胸が苦しくなり、「旅路を死神」は、言語化できない男同士の関係性に感情を揺さぶられたので、とてもお気に入りです。

死神という存在なので、人間の常識は通用しません。
ただ、長年ずっと人間を調査してきているため、断片的に人間の特徴というものは知っています。
しかしその知識は、自分の経験によって見聞きした内容なので、ズレている内容が多いです。
そのズレのせいで、周りの人間から変人扱いされるのですが、その掛け合いも面白いところです。
死神なのに、所属している組織の命令に従って働いているので、人間臭いサラリーマンのように見えます。

内容は6つのストーリーから成っており、いずれも主人公の目的は変わりません。
調査対象に死が訪れるのを「可」とするか「見送り」とするかです。
ほとんどの場合は「可」と判断されるのが慣例らしく、真面目に調査する死神は、本作の主人公くらいのようなものだそうです。

ハートフルな物語であれば、主人公が調査対象に感情移入してしまい、死ぬべき運命にある相手を「見送り」にして助けるのでしょう。
しかし本作では、そのような展開はほぼありません。
調査対象のエピソードが、心が温まるような結末で終わったとしても、そのあとに待っているのは「可」という報告による死です。
その事実が、何となく読後感を重たいものにしているのだと思います。

人間は遅かれ早かれ、死ぬ運命にある生き物です。
本作では、その調査対象の死が近々に差し迫っているので、「この後すぐに死んでしまうのか、可哀想だな」という思いを、ついつい抱いてしまいます。
しかし本作に限らず、主人公が人である作品は、どんなにハッピーエンドで終わったとしてもいつかは死ぬわけです(早い遅いの違いはあったとしても)。
それは間違いないのですが、いつか死ぬからと言ってハッピーエンドが偽りのものであるかというと、決してそういうわけではないと思います。

本作は「死神」という存在が主人公なので、ついつい調査対象の生き死にに注目してしまいます。
どんなラストであっても「でも結局、この後死ぬんだよね」という思いがあります。
しかし僕は、そのあとに死ぬかどうかよりも、どのように生きたかということの方が重要なのだと逆説的に言っているように解釈しました。
自分に最近、接近してきた変な人がいたら、その人がひょっとすると死神なのかもしれません。

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