「VIPRPG紅白2023」のエントリー作品「ひのせせらぎ」の紹介・感想記事です。
3章構成で、じっくり丁寧に描かれているストーリー描写が特徴です。
心情的に辛い展開もありますが、心温まる場面もあってハートフル()な作品です。
クリア時間は約3時間半でした。
うわべだけのゲーム概要(ネタバレはないはず)
鬼が住む森の中で母親とはぐれてしまった少年ルカが、鬼のクオンに介抱されたところから第1章が始まります。
ルカとクオンの交流が第1章で描かれ、第2章では過去のお話、第3章は1章の続きが描かれます。
2Dを3Dっぽく見せる手法が使われており、グラフィックに立体的な奥行きが感じられます。
差し挟まれるバトルシーン、奥行きが感じられて見ごたえがあります。
ただし、全体的には重い展開や流血表現などがあるので、メンタルが安定している際にプレイするのが望ましいと思います。
感想・考察(ネタバレあり)
ここから先はネタバレがあります。
ゲームを最後までプレイしていない場合は読まないことをお勧めします。
『ひのせせらぎ』、最後までプレイして楽しませていただきました。
各章の大まかな印象としては、
・第1章→ ハートフル(クリア後はまた違った印象)
・第2章→ 人の心とかないんか?
・第3章→ hurtful.
という感じでした。
第1章は、じわじわ怖くなってくるホラーっぽい演出が良かったです。
鬼との心温まる交流かと思いきやホラーで、でもルカの優しさで鬼の心を融かすような、表面上はそういった展開でした。
昔話や絵本なら、この第1章で終わっていたことでしょう。
クオンの「ンフフ」と笑うたびに脳裏に王騎将軍の顔がチラつきました。
第2章は、過去についての話で、非常に気分が悪くなる展開でした(誉め言葉)。
どのように繋がって来るのかと読み進めて、最後にはそうつながってくるのかと納得しました。
レイとヒツルギは可哀想としか言いようがありません。
時折見られるレイの強さはカッコイイなと思いました(夜の村長邸訪問、ヒツルギ死亡後に冷静さを取り繕うシーン、名推理シーン等)。
第3章は、激しいバトルシーンの見せ場が多かったです。
特に冒頭の兵士たちとの殺陣は見ごたえ抜群で、見るゲの醍醐味を存分に味わうことが出来ました。
最初に兵士が背後に回り込む影が映り込むシーンは、奥行きが感じられて凄かったです。
最後はやっぱりこうなってしまうよな、という納得感のある終わり方でした。
考察など
僕の率直な印象としては、クオンはルカが復讐に行くように仕向けているな、と感じました。
そもそもクオンは一人で村を襲撃するのは難しいという認識があります。
それでも村に行くというのは、まず大前提として、自分が死にたいという願望があったのだと思います(作者様もあとがきで書いていたように)。
その上で、ルカに復讐してもいいし、しなくてもいいという選択の自由を与えているように見えますが、復讐しないという選択は事実上選べないようにしてきているように見えます。
クオンは、自分に対する好感度を上げるようなイベントを散りばめて、自分が死んだ際に、ルカが自らの意思で復讐を選ぶように誘導している思惑がかなり感じられました。
まず第一に、ルカを大人にする方法について、少量の体液交換だけでも可能と言っているのに、わざわざ恋慕の情を深めるような手段を選択しているという点です。
夫に似たルカに対して、クオンが感情を抑えきれずこの手段を取ったとかには当然読み取れないので、やはり意図があってこの方法を選択していると感じます。
第二に、下半身が麻痺する薬草の一件にしても同様です。
あらかじめ家中から鏡を隠しておくほど周到なクオンが、ルカの目に届く範囲内に薬草や図鑑を置いておくものでしょうか。
あの一件は、ルカが問い詰めてくるように仕向けて、その後しおらしく謝ることで信頼を深めるという小細工だったように思えてなりません。
食事の時、ルカに指摘されたときも、動揺ではなく「おや」と、むしろ気付いてくれて嬉しいようにすら見えます。
その後の「料理を作り直すので、私の後ろで見ていてください」というセリフは、私はもう嘘は付きませんよ、という過剰なアピールに感じられました。
そもそも瘴気や幻惑の術によって森から簡単に逃げられないようになっていますし、薬草による足止めが本当に必要だったとは考えにくいです。
それでもこの手段を取ったということは、逃走防止ではなく、他の理由があったのだと思います。
例えば、ルカに自分を問い詰めさせて、それを正直に答えて信頼度を上げるという目論見があったのではないでしょうか。
単純に、甲斐甲斐しく看病することによって、ルカの好感度を上げようとしていたのかもしれません。
鏡についても、あの部屋に一つだけ残しておいたり、わざわざ兵士の鎧を持ち帰ったりしたのも「夢とかじゃなくて、ルカさんは兵士を殺しましたけど、私がやらせたことだから気にしないでくださいね」→「それをちゃんと教えてくれる正直な人だ!」という流れを作る仕掛けだと感じてしまいます。
薬草の一件が先に発覚したのはたまたまで、鏡の件とどちらが先に発覚しても良かったのかもしれません。
自由ですと言いながら、ルカの優しさを理解しているクオンが、この後自分が死んだらどういう行動をとるか予想できない訳はないでしょう。
寝ているルカに嘘をつく必要はありませんから、自覚的か無自覚かはさておき、自分自身を騙しているように感じられてしまいます。
8年という年月で、家族の所へ行きたい(死にたい)という思いが募っていき、復讐心に勝ってしまったのでしょうか。
決して復讐心が薄れていったわけではなく、死にたい気持ちが勝ってしまったので、あとはルカに託すと言っているように聞こえます。
本当に復讐なんて考えず幸せに生きて欲しいと思うなら、置手紙に「今の私は、きっと醜いから」というような書き方をせず、「決して復讐など考えず幸せに生きてください」のような内容になる気がします。
僕が「クオンがルカをずっと復讐するように仕向けている」と思い込んでしまっているため、全てをこじつけてしまっているだけなのかもしれません。
しかし、一歩引いて考えたとしても、全く復讐に仕向けていないと言うのは難しいように思いました。
レイの考えについては、クオンとまあまあ一緒であるかと思いますが、状況の認識に齟齬はあるかと思います。
レイは、ルカをクオンに引き渡した時点で、傀儡化されて復讐達成という覚悟はしていると思います。
しかし、クオンが一人でやって来たということは「ルカを復讐の道具にすることはやめたんだな」というシンプルな思いであったと解釈しています。
ですので、レイは比較的満足して死んでいったのではないかなと思います。
このあとルカが復讐に走るであろうことまでは、たぶん認識していなかったと思います。
自分の子供を守るためになりふり構わず他者を犠牲にする村長と、自分の復讐のために子供を犠牲にしているクオン、どちらが正しいのか僕にはわかりません(クオンはルカの親ではないですが)。
ただ物語の見せ方上、当然、村長に肩入れすることはできませんでした。
村長の息子が全ての原因ではあるものの、その後の流れを作ったのはクロで、ルカが復讐鬼となる道筋を作ったのはクオンであると言えます。
その二人が実質ラストバトルとなるのは、何となくあるべき形だったように思えます。
「ひのせせらぎ」の「ひ」がクロの詠唱にもあるように「緋」であるとするなら、復讐心といった感情が血液のように、子に受け継がれていく様を表しているのではないでしょうか。
そしてその結果、村が血みどろになってしまった情景をも併せて示しているように感じました。
「非」と解釈して、犯した過ちが止めどなく流れていくと考えても良いかもしれません。
タイトルだけ見るとひらがな表記で可愛らしいのですが、その実はサスペンス性溢れた復讐劇の作品でした。
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コメント
感想、考察ありがとうございます!
ここまで見て頂いて嬉しい限りです
色々感心してしまうのですが
最後の「非」というもう一つの解釈、そういうのも有りかと呻ってしまいました…!
素敵過ぎる考察、本当にありがとうございました!
わざわざコメントありがとうございます!
正解・不正解はともかく、こういう解釈をしてしまってもいいかな…と好き勝手に色々と書かせていただきました。
寛大なご配慮ありがとうございます。
こちらこそ、素敵な作品をどうもありがとうございました。