リコレクトエデン(フリー・ビジュアルノベル)紹介・感想

ゲーム
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アクアポラリス様によるフリーのビジュアルノベルゲーム『リコレクトエデン』の紹介記事です。
GIFTと呼ばれる超能力を使う人間が出現し始めた世界での、手に汗握る超能力バトルが売り…ではなく、愛をテーマにした作品です。

クリア時間は公称10時間~15時間です。
(自分は少し早めに読んで約9時間半でした)

ゲーム概要

2042年の日本では超能力遺伝子「GIFT」の存在が公表され、混乱に包まれていました。
その対策のため設立された超能力関連技術総合研究所の第4課は、能力者たちを「回収」する特殊部隊です。
本作は第4課を舞台にして、仲間たちとの絆を強めつつ、時には信念をぶつけ合いながらも、大きな陰謀に立ち向かっていきます。

 

ゲーム開始時、2つのシナリオを選択できます。
まず1つ目は柊六花(ひいらぎ りっか)の物語・追想編です。

 

そしてもう1つは、一ノ瀬國人(いちのせ くにひと)の物語・追憶編です。
時系列としては、追憶編の先であり、追想編が後ということになります。
どちらからプレイしても問題はありませんが、プレイ順によって物語の作品の印象は変わると思います。

僕は追想編→追憶編の順でプレイしました。
この順番だと、記憶を失った六花とプレイヤーが重なり、感情移入はしやすいかもしれません。
反面、分からないことが多くありますが、伏線回収が好きな人にとってはお勧めの順番です。

追憶編→追想編の場合は、シンプルな時系列順ということになるため、物語を理解しやすいと思われます。
追想編で記憶を失った六花に対して、全てを伝えたくなるもどかしい衝動に駆られるかもしれません(想像です)。

 

本作では文章を読み進めて行くのがメインですが、Tipsが備えられています。
少し未来の世界ということもあり専門用語もそこそこ登場しますのでありがたいです。
もっとも、専門用語は自然に作中で説明されて理解できるようになっているので、一度もTipsを見なくても大丈夫なレベルだと思います。

 

本作では、要所でGIFTを使用できるシーンがあります。
そのシーンが近づくと、画面右上にガイドが表示されるのでクリックしてみましょう。

 

クリックすると、どの系統のGIFTを発動するか選択できます。
六花の場合は3種類から選択し、國人の場合は1種類のみです。
そのまま読み進めると、設定されたタイミングで自動的に選択したGIFTが発動されます。
GIFTを何も選んでいない場合は、使用しないという選択をしたことになり、展開が分岐していきます。

 

常にGIFTを使用すればいいわけではなく、使うべきか使わざるべきは状況によって異なります。
もし選択を誤りBAD ENDになってしまっても、すぐに直前の選択肢に戻れるので心配はありません。

なお、セーブスロット数は19個+オートセーブ枠1個の、計20個です。
物足りないと感じるかもしれませんが、本作は場面が細かくチャプターで区切られています。
過去のシーンを見返したいときは、データのロードに頼らなくても、見たいチャプターを選択すればそれほど支障はないと思います。

 

感想(ネタバレ無し)

全体的に、尖らせたり奇をてらうという方向性ではなく、ある意味王道的な材料を使って丁寧に作っているという印象を受けました。
奇抜さよりも完成度で魅せるタイプの作品だと思います。

ノベルゲームの面白さというのは、そのほとんどが物語的要素で占められていると考えています。
そして物語的要素とは何かと考えたとき、大まかに以下の5つの要素があるのではないかと思います(私見です)。

①ストーリーの面白さ
起承転結の構成や伏線の巧妙さ、展開のテンポなどが良いかどうか

②キャラクターの魅力
意味のある個性、心理描写、成長、キャラ同士の掛け合い、印象的なセリフ等

③世界観の設定
背景、時代、文化、ルールなどの一貫性・独自性・必然性の有無

④テーマ性・メッセージ性
作品が最終的に伝えたい思想、価値観、問い等が感じられるか

⑤文章力
地の文や会話文のリズム、表現、ユーモア、没入感等

以上の物語的要素の他に、グラフィックやBGMなどの「表現的要素」、選択肢やルートの設計・UIや操作性からなる「ゲーム的要素」というものがあると思います。
これら3点の要素から、本作『リコレクトエデン』の感想をネタバレ無しで書いていこうと思います。

具体的な内容に触れずに書くため、ちょっと抽象的でふわふわした内容になってしまいますが、少しでも雰囲気が伝われば幸いです。

 

物語的要素

ストーリーの面白さ

ストーリーは、安心して読み進められる内容だったと思います。
記憶喪失の柊六花と、知識のない状態のプレイヤーの状況を重ね、六花に感情移入させていくという手法は、定番だからこそ効果的だと感じました。
記憶が無いからこそ、プレイヤーに分からないことが多く伏線も多くありました。
通常、伏線が多すぎると分からないことが多くなりストレスになりかねないのですが、本作では
追想編・追憶編と、2つのシナリオがあることが最初に明示されています。
謎は多いものの、あとで判明するであろうという見通しをプレイヤーに与え、ストレスを抑えます。

展開・結末については、予想外のどんでん返しが続くというものではなく、こうなって欲しいなと思った方向性の展開が多かったです。
これは展開が予想できて退屈という意味ではなく、安心感のある進行で読みやすいという意味です。
全体から見ると小さな要素でしかないエピソードについても、心情が丁寧に描写されていて好感が持てました。

 

キャラクターの魅力

キャラクターは主人公2人をはじめ、生き生きと描写されていたと感じました。
地の文で描写される主人公の心情については不自然に感じたところは特にありませんでしたし、違和感なく読めました。
六花視点からは何を考えているか分からなかった國人の心情も、國人視点のシナリオを読めば理解できますし、納得感がありました。

また、主人公以外の登場人物についても魅力的だったと思います。
主要登場人物である四課の面々は一人一人にバックボーンがあり、仲間としての存在感がありました。
主人公以外のキャラクターに対する描写配分は適切で、ちょうど良いバランスだと感じました。
群像劇の場合、主人公以外の登場人物について多くのテキスト量を割くことがあり、本筋がブレてしまう場合もありますが、本作ではそういうことはなかったと思います。

ほか、1つのエピソードしか登場しない脇役のキャラクターも心に残っています。
作品中での役割として考えたとき、舞台装置のひとつという役割にしか過ぎない存在でも、そういうことを感じさせず、ひとりの人間として行動し言葉を発していることが感じられました(特に追想編 第三章のクラスメート二人)。

 

世界観の設定

少し未来の日本が舞台で、超能力に目覚める人類が出現し始めたというのは、創作物ではよく目にする設定だと思います。
しかし、その分すんなり受け入れやすく、頭の中に自然と入ってきました。
超能力に目覚める理由についてはオリジナリティがありますし、本作のテーマとも深く関わる内容なので、必然性や一貫性が感じられました。

こういった設定の説明については、プレイヤーに対して説明する必要があるため、説明パートにある程度テキストを割かなければならない都合があります。
その点については、記憶喪失の主人公に対して説明することで、プレイヤーに対しても自然に説明できるという常套手段で違和感なく組み込んでいます。
僕は、序盤の説明シーンを少し長く感じてしまいましたが、主要人物紹介のための描写も兼ねていたりするため、特別気にする必要ないでしょう。

 

テーマ性・メッセージ性

これは、かなり明示的に示されていてわかりやすいです。
公式ページでのキャッチコピーは、以下のように書かれています。
『これは、ギャルゲーでも、乙女ゲーでも、SFでも、世界系でもない。純粋なる愛の物語。』

つまり、本作のテーマは愛だということです。
こういった作品でテーマがはっきりと示されることは稀だと思います。
読み終えてみると、確かにそうだったと納得する結末であり、一貫性が感じられました。

もっと言うなら、公式ページのストーリー紹介の最後の部分に、本作の結末がはっきり書いてあります。
『運命の歯車は廻りだした。今、それぞれの想いが一つの物語を紡ぎ出す。
ーーそして、世界は愛を知る。』

未プレイの人は、この文章を見てどういうことだろうと首をかしげるでしょう。
しかしクリアしたプレイヤーから言わせてもらうと、これは比喩でも何でもなく、直接的な事実を書いているのです。
興味を持った方は、本作を最後まで読んでいただければわかるはずです。

 

文章力

文章は、癖がなく読みやすいと感じました。
変に難しい言葉を使っているわけではなく、意識して分かりやすく書いていると感じます。
一度に表示される文章は基本1行~2行であり、メッセージウィンドウをパッと見ただけで内容が読み取れるよう、かなり配慮されているのではと感じました。

 

表現的要素

総じて、フリーゲームとしては十分過ぎる豪華さだと思います。

グラフィックについては、各キャラクターにオリジナルの立ち絵が用意されています。
脇役でも差分をしっかり用意してあり、とても手間をかけていると思います。
イベントシーンでは一枚絵を表示する演出が多く、フリー作品としてはかなり力が入っています。

OPとEDにはムービーとボーカル曲が用意されており、豪華な作りだという印象です。
ゲームを盛り上げるBGMは総じて秀逸であり、フリー音源以外にプロに依頼されているオリジナル曲が複数使われています。

僕が特に好きなのは、タイトル画面で流れるメインテーマです。
これだけを単体で聴くためにゲームを起動するくらいお気に入りになりました。

 

ゲーム的要素

ノベルゲームにおけるゲーム的要素は何なのかという点についてですが、僕が思うに、本ではなくゲームだからこそ出来る部分だと思っています。
例えば、選択肢によるシナリオ分岐であったり、順番にルートが解放されていく構成などが、ゲーム的ならではの見せ方というのがそこに該当するのではないでしょうか。

本作はというと、まずゲーム開始時にシナリオ選択できるという点がその要素だと思います。
追想編・追憶編という2つのシナリオの、どちらから始めることも可能ということになっています。
これはプレイヤーにとっては、どちらから始めるべきかという迷いを与えてしまうことにもなりかねないので、良い悪いのどちらとも言えないかなと思います。
ただ、どちらから開始したとしても、シナリオのラストがもう一方の最初に繋がる形になっているのは、面白い工夫だなと感じました。

 

ゲームならではの要素としてオーソドックスなのは、選択肢による分岐です。
本作は通常の選択肢ではなく、あらかじめ発動させるGIFTを決めておき、その場面になったら発動するという仕組みになっています。
ちょっとひねりが利いていて面白いのですが、普通に選択肢を選ぶ方が快適だったように思います。

その他のUIについては、必要な機能は網羅されており、不満はありませんでした。
各シナリオは、章とチャプターに細かく区切られており、見返したいシーンに飛びやすいのは良かったです。
また、TIPSが閲覧できるので、作中で専門用語を細かく説明する必要が無くなり、より深く知りたい人だけ読めるようにしてあるのは親切な設計だと感じました。

総評

色々と細かく書いてきましたが、とてもクオリティが高いフリーゲームであると感じました。
見慣れている食材を使って普通に調理し、みんなが美味しいと感じる料理を作るのは非常に難しく、確かな技術が必要になると思います。
まるで肉じゃがのように安心して楽しめる作品だと思うので、興味を持った方にはぜひ読んでもらいたいと思います。

 

感想・スクショを添えて(ネタバレ注意)

以下は、スクショを添えながらネタバレ込みで感想を書いていきます。
プレイ前の人は読まないようにご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

追想編の第2話より。
記憶を失って以降、言い寄って来る小野をどう扱っていいのか迷っている様子の六花。
しかし最終的に同じ課の仲間という形でしっくり来たので、迷いなく相棒と言いきれて落ち着きました。
小野としては、まだこの時点では諦めきれていないはずですが、関係性が定まり、六花の居場所が課に出来つつあることが描かれた好きなエピソードです。

 

『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『ガラスの仮面』のセリフが登場し、たまたまかもしれませんが、貴咲さんはアニメや漫画が結構好きなのかな? と思ってしまったシーンでした。
研究者で年長者というだけあって、教師としての立ち居振る舞いも似合っていました。

 

追想編第3話のクラスメート・雪子&向日葵。
六花に対して普通に接し、束の間ですが学生としての日常を体験させてくれました。
潜入捜査していたことを明かした六花に対しても、「女子高生に嘘はつきもの」と受け止めてくれる良い子たちでした。

クリア後に振り返ると、六花はおそらく普通に学校に通った経験はないと思われます。
したがってこのエピソードは、六花が普通の人間として学校に通って友達ができたという、貴重な体験のエピソードだったのだなと感じ入るものがありました。

 

戦闘力自体は高い小野ですが、バカという共通認識のせいで侮られているのが笑えます。
だからこそ、本当に活躍するシーンはギャップで格好良く見えるので、それがまた良いなと思います。

 

もうこの言い方ひとつだけで、苦手だということが完全に分かってしまうのが六花の面白いところです。
このスクショだと小野が無表情なのがシュールで面白いです。

 

ヒトハチマルマルと言いかけ、業務外なので通常の言い方に直す舞原の人間味が感じられました。

 

作中の自衛隊と、現実の自衛隊は仕組みが少し違うかもしれませんが、佐官以上は昇級試験ではなく、専ら選考による昇進となるそうです。
したがって、大将の後ろ盾があれば、数か月で少将になるということも決して不可能ではなさそうです。
しかしながら異例のスピードなので、周りの敵も多そうな気がします。

 

小野とはもっと早く打ち解けられそうな気がしていましたが、何だかんだで最終盤でようやくという感じでした。
番長同士が河川敷で殴り合って仲良くなるみたいな通過儀礼を経て、ようやく仲間となった気がします。

 

小野が隠し持っていた硬貨をマシンガンの銃弾一つ一つに当てて相殺したシーンです。
ギルガメッシュ(Fate)のゲート・オブ・バビロンみたいな感じでカッコいいです。
ランクAの称号は伊達ではありません。

 

『聖闘士星矢』ポセイドン編に登場するリュムナデスのカーサを彷彿とさせるセリフとやられっぷりで笑いました。(古い)

 

クライマックスのシーン。
最初は上が國人、下が六花の心情となっていますが…

 

次第に二人の心情がシンクロしていき、重なっていく演出が素晴らしいと思いました。

 

そして最後は上下が別ではなく、一つに繋がって一文となります。
まさに人との繋がりを描いた本作に相応しいクライマックスだったのではと思います。

 

舞原は辰巳の駒として、國人たちを阻む敵で居続けると予想していましたが、迷いが生じる展開になるのは意外でした。

 

愛を捨てながら、実は捨てきれていなかったことをリリスに気付かされるシーン。
このリリスの表情良いですよね。

 

第4課の最後のピースが舞原というのは意外でしたが、チームとしてようやくまとまった気がしてスッキリする終わり方でした。
舞原は辰巳と相打ちになって死んでしまうくらいは覚悟していたので、そういった展開にならなくてホッとしました。

 

公式ページのあらすじにあった「そして、世界は愛を知る。」というのはこういうことだったのかと腑に落ちました。
それにしても恥ずかし過ぎる体験だと思います。

 

仁花からの「生まれてきてくれて、ありがとう」という言葉に、國人がホロリと涙を流すラストシーンです。
自分を卑下し続けて生きていた國人でしたが、自分の存在が無条件に肯定されたことに感極まったのでしょう。
國人にとっては大切な娘である仁花が、まさにギフト(神からの贈り物)のような存在なのだと思います。
両親から愛情を感じたことが一度もなかった國人が、仁花からの言葉によって、自分も誰かにとってのギフトなのだということが、ようやく体験できたのではないでしょうか。

素直に良かったなと思えるラストで、読み終えたあと、しばらく温かな気持ちに浸れました。

そのほか、本ブログで紹介しているゲームをまとめた記事はこちらです。
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