鼓草 つづみぐさ(フリー・女性向け恋愛アドベンチャー)紹介・感想

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女性向け恋愛ADV「鼓草」(つづみぐさ)をプレイしました。
ダウンロードしたきっかけは、Twitter上での作品紹介のつぶやきを見て、興味を持ったからです。
ジャンルは「女性向け恋愛ADV」と銘打たれていますが、そういったジャンルを超えた作品だと思います。
確かに主人公は女性ですが、男の僕でも全く問題なく楽しめました。
興味を持ったのであれば、男女関係なく読んで欲しい作品です。

おすすめ同人紹介による同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2020」の泣き部門で受賞されており、僕も何度も涙をこらえきれませんでした。
全てのエンディングを見終えたクリア時間は、約4時間半でした。

ダウンロードはこちら → ふりーむ!

公式ページによる紹介はこちら → ゲーム制作サイト「日々雲隠れ」様

作品紹介など(ネタバレ無し)

「鼓草」は、文章を読み進めていき、途中の選択肢によって結末が変わる恋愛アドベンチャーゲームです。
ゲーム画面は、立ち絵+ウィンドウ枠というオーソドックスなデザインです。
序盤の物語を紹介しつつ、ネタバレをしないよう、以下に感想を書いていきます。

舞台となるのは昭和18年、太平洋戦争真っ只中の日本、岡山県です。
主人公の麻田綿子(あさだ・わたこ)が、出征を控えた青年に、急遽嫁ぐことが決まったところから、物語が始まります。
綿子もプレイヤーも、よくわからないうちに祝言が終わります。
「元より親の決めたことに逆らえる立場でない」という綿子の独白から、今とは違う時代の話なのだと強く感じさせられます。

相手の顔さえ知らない状態で結婚することになった綿子ですが、結婚相手の絹本尚太郎(きぬもと・なおたろう)、芳次郎(よしじろう)、その義父の治雄(はるお)、義母のみどりと少しずつ馴染んでいきます。
芳次郎は無愛想で言葉にトゲがありますが、綿子を嫌っているわけではなさそうです。
治雄はこの時代には珍しく、理性的で物分かりが良いように思えます。
みどりは穏やかなで良い人なのですが、「嫁いできた女性の役割=跡継ぎを生むこと」という、この時代では標準的な考えを持っています。
そのため、悪気はないのですが、知らず知らず綿子にプレッシャーを与えてしまっています。

夫の直太朗は出征が決まっており、戦争に行けば生きて帰ってくることは難しいと、みんなが分かっています。
だんだん仲良くなっていくのは心温まるのですが、後の別れが辛くなっていくため、プレイヤーに漠然とした不安を感じさせます。

そして物語はさらに進んでいき、絹本家を取り巻く状況は、綿子に究極の選択を迫ることになります。
果たして綿子は、選ぶことができるのでしょうか。
戦争という時代の波に翻弄される、夫婦とその家族を描いたヒューマンドラマであると感じました。
少しでも本作に興味を持った人は、プレイして損はさせません。

本作のエンディングは5種類あり、ある選択肢によって明確に分岐していくため、回収するのは容易です。
5種類のうち2つは、2周目以降に増える選択肢によって到達できる、おまけ的なIFストーリーです。
また、クリア後には、登場人物の心情を綴った日記や攻略情報などが解禁されます。

感想(ネタバレ有り)

全てのエンディングを見終えました。
本作は、確かに「女性向け恋愛アドベンチャー」であると思います。
主人公は女性、そして攻略対象は夫と義弟なので、確かに形式上は乙女ゲーなのかもしれません。
しかし前書きでも書いたように、本作はそういったジャンルを超えた作品であると僕は感じました。

様々な参考文献による戦時中の細かい描写が、作中をとてもリアルな世界にしています。
僕は当時の社会情勢に特別詳しいわけではありませんが、詳細な描写に説得力があり、真実味を感じさせられました。
僕の好きな言葉に「細部にこそ神が宿る」というものがあるのですが、本作はまさにそういう作品だと思います。

本作のシナリオは、戦時中という舞台だからこそ描けるものであり、設定に無駄がありません。
仮に現代が舞台だとしたら、いきなり顔も知らない男性に嫁ぐという導入は受け入れられるでしょうか。
たくさんの理由付けが必要となりますし、説明のためにテンポが悪くなってしまうでしょう。
実際に、女性の権利がかなり制限されていた時代設定だからこそ、こういった導入であっても説得力が伴うのだと思います。
完全な異世界の設定よりも、私達の住んでいる世界から少しズラした程度の異世界であれば、割と受け入れやすいものなのかもしれません。

さて、本作の一番の見所は、やはり誰の妻であるかを選ぶシーンでしょう。
尚太郎が戦死するところまでは、プレイヤーも登場人物たちも含めて予期していたことです。
出征すれば、ほとんど生きては帰って来られないと作中で言われていますし、綿子もすぐに未亡人になってしまうと言われています。

だからこそ、僕はその後の芳次郎との奇妙な再婚生活が本作のメインテーマだと思っていました。
生きていくために芳次郎と再婚した綿子と、尊敬する兄への後ろめたさから素直に接することができない芳次郎との結婚生活は、不器用ながらも微笑ましく新鮮に見えました。
段々と二人が仲良くなっていく様子を見ていると、確かにこれは恋愛アドベンチャーだと感じることが多かったです。

しかし、芳次郎との再婚生活が軌道に乗ってきたところで、尚太郎が生還してしまいます。
僕は頭の中でその可能性を考えながらも、そういう展開であって欲しくないと思っていました。
本来なら、夫の生還はとても喜ばしいことのはずです。
ところが、芳次郎と再婚してしまっていることにより、それが手放しで喜べる状況ではなくなってしまいます。
しんどい展開ですが、これは誰かひとりが悪いということではありません。
みんなそれぞれ良かれと思ってやったことが、間の悪い形で噛み合ってしまったということです。
強いて言えばこの時代と、戦争が悪いということなのでしょう。

主人公が、こういった状況に置かれた作品は、あまりプレイしたことがありません。
そのため、僕自身にあまり耐性がなく、登場人物のふとしたセリフや涙に、思わずもらい泣きしてしまうことが多かったです。
昔にプレイしたPCゲーム「君が望む永遠」は、少しだけ似ているシチュエーションだったかもしれません(発売が20年前という事実にショックを受けました)。

3つの選択肢の中で最初に選んだのは、「芳次郎の妻」でした。
本作の究極の選択であるこの選択肢を選ぶ際、僕は間違いなく自分自身を綿子に投影していました。
真剣に、自分が誰の妻であるのかを考え、迷いに迷って選びました。
芳次郎を選んだ自分なりの理由としては、現に今、芳次郎の妻であるからという点が大きいです。
夫の尚太郎が戦死した連絡が届いているわけですし、実家に帰ることができない綿子にとっては、芳次郎と結婚するしかなかったと思っています。
そういった現実的な理由に加えて、綿子は綿子なりに心の整理を進めた結果、芳次郎自身に惹かれていった点にも共感しました。
みんなが心の整理をし始めて、改めて歩んでいこうと思った矢先に尚太郎が生きて帰ってくると、「ようやく芳次郎と上手くやっていけそうだと思っていたのに・・・」と思ってしまいました。
尚太郎の気持ちを考えると申し訳ないのですが、このように思ってしまったのが正直なところです。

結果的にではありますが、3つの選択肢の中では一番前向きな結末だったのではないでしょうか。
芳次郎を選んだ僕は、「今・現在」を重視するタイプなのかもしれません。

次に選んだのは、「尚太郎の妻」でした。
元通りの夫婦関係に戻るということなので、再婚さえしていなければ、本来は一番良い形だったのかもしれません。
ただ、芳次郎にとっては、あんまりな選択とも言えます。

普段、めったに本心を出さず、皆に気を遣ってばかりの芳次郎が感情を爆発させるシーンは、やるせない気持ちでいっぱいになりました。
本作は、何かと芳次郎が割を食うことが多いので、特に同情してしまいます。
この選択肢の展開を読んで、僕は芳次郎が一番好きということを自覚しました。

最後に選んだのは、「どちらも選べない」という選択肢でした。
ろくに選択権を与えられずに育ってきた綿子が、絹本家で選ばされるのはハードな選択ばかりです。
選ばせてくれるということは、絹本家の両親が綿子の意思を尊重してくれているということですから、本当はありがたいことのはずです。
しかし、尚太郎か芳次郎のどちらかを選べというのは、あまりにも荷が重いです。
綿子が選べなかったとしても、誰が責められるでしょうか。
最終的に、死を選ぼうとした綿子を責める気にはなりませんでした。

この選択での後日談は、他の選択肢より長かったような気がしますが、その分スッキリしたように思えます。
修が本当の父親である芳次郎に会いに行き、綿子と尚太郎から本当のことを教えられたことで、ようやく長い物語が清算されたように思えます。
どんな激動の時代にあっても、人は現実と気持ちに折り合いをつけて生きていくのだな、とある種のたくましさを感じました。

 

本作の登場人物は多くありませんが、絹本家以外で大きな存在感を放つのは、もちろん秋江さんです。
主人公の綿子とは、一見対照的に描かれているように見えます。

しかし、物語を読んでいくにつれて、自由そうに見えた秋江も、結局は綿子と同じような境遇なのだなと感じました。
尚太郎との結婚についても、秋江の親が白紙にしたからこそ無くなったと語られています。

ひょっとすると、綿子が絹本家に嫁いで起きたことは、秋江が辿るかもしれなかった運命です。
それ故に、秋江は綿子が他人とは思えず、何かと気にかけてくれるのでしょう。
生きるために芳次郎と再婚したことに気遣いを見せるあたり、優しい人なのだと思います。
控えめな綿子には珍しく、地の文で「私の瀬庭での唯一の友人」と称しています。
ストーリーの本筋に深く影響しているわけではありませんが、綿子の心を影ながら支えていた人なので、芳次郎の次くらいに好きな人物です。

まとまりなく、色々なことをダラダラと語ってしまいました。
鼓草(タンポポ)の花言葉には「離別」や「真心の愛」という意味があります。
本作は、まさに離別の物語であり、真心の愛の物語であったと思いました。

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