医療機器商社(ディーラー)の仕事 ディスポ製品のリユース問題

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病院で使用されている医療機器の中には、ディスポーザブル(使い捨て)のものと、リユース(再使用)できるものがあります。
近年、このディスポーザブル製品(以下ディスポ製品)が、リユースされていることが問題となっています。
今回はディーラーの目線から、これについて語っていこうと思います。

rawpixel / Pixabay

それぞれのデメリット

まずディスポ品のメリットは、洗浄・滅菌の手間が要らないという点が挙げられます。
一度使用したものは廃棄して、次は新しいものを開封するため、機器の劣化による破損や、洗浄残しなどによる感染のリスクもありません。

患者に使用した医療機器は、当然、血液や組織で汚染されています。
リユース品であれば、それらを綺麗に洗浄した後、滅菌をしなければいけません。
洗浄するには手間が掛かりますし、滅菌するにしても滅菌バッグ・しっかり滅菌されているかを保証するインジケーターなどの部分で、コストがかかります。

しかしデメリットとしては、高価な医療機器であっても一度使用したら捨てなければいけないため、コストがかさむということです。
洗浄・滅菌の手間がかかるといっても、新品を購入するほどの金額がかかるわけではありません。
したがって、医療機関からしてみると、ディスポ品はとにかくお金がかかるということになります。

 
 
 

ディスポ品を再生することの問題点

ディスポ品は再生することの問題は、まず耐久性についての問題です。
ディスポ品は単回使用を前提に作られており、何度も洗浄・滅菌してリユースできるような試験を行っていません。
そのため、使用中に再滅菌が原因で機器が破損し、患者への健康被害が出てしまった場合、医療機関の責任となってしまう場合があります。
 
 

医療機器には必ず「添付文書」というものが添付されており、単回使用製品かどうか記載されています。
合理的な理由が無く、これに従わずに発生した事故については、医師の過失が推定されるという判例もあります。

(最高裁平成14年11月8日判決・スティーブンス・ジョンソン症候群事件)

 
 

次に、感染対策上の問題点です。
クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となるプリオンというたんぱく質は、通常の洗浄・滅菌方法では不活性化が困難です。
ディスポ品に限りませんが、脳などの中枢神経に触れた器具は感染経路となりうるため、特に気をつけなければいけません。


メーカーの立場からすれば、ディスポ品が再使用されてしまえば、当然売り上げがその分減るということになります。

売り上げを増やしたいメーカー側の立場からすると、売り上げ・安全性の両方の目的で、ディスポとして使ってもらいたいのは当然です。

しかし医療機関の中には、こういったディスポ品を独自に再生している場合があります。

健康被害が出ているわけではなくても、ニュースで報道されてしまうと、大変なイメージダウンとなってしまいます。
厚生労働省からも各病院に「ディスポ品はディスポとして使うように」という通達が出されています。

それでもなお、ディスポ品の再使用は無くなっていません。
やはりその理由は、「ディスポ品の中には、どう考えても複数回の使用に耐えうる耐久性を持っているものがあり、これを単回で捨てるのはもったいない」という考えがあるから、なのではと思います。

 
 
 

ディスポ品を再製造のルール化

そこで昨今、医療機関が独自に行ってきたディスポ品の再生を法制化しようということで、国が動き始めました。
ただ単に禁止するのではなく、しっかりとルールに則った上で行うという動きです。

現に海外では、単回使用医療機器の再製造が行われており、いくつかのモデルが示されています。
例えばアメリカでは、使用済みのディスポ品を再製造業者が回収し、再製造後に、各病院へ販売しています。
ドイツでは、病院内の再製造業務の外部委託という形で、再製造業が発達してきているようです。
もちろん条件を満たせば、再製造品を他の病院に販売することも可能です。
フランスでは、過去に再使用によってクロイツフェルトヤコブ病の感染が起きた歴史があり、国内法で再使用そのものが禁止されているようです。


どの国においても、今のところ再製造品を使ったことによる問題は起きておらず、きちんと運用されれば安全上の問題はなさそうだと言えるでしょう。

すでに国内でも、2019年の再製造商品販売を目指し、動き始めている企業もあるようです。
 
 

今後の見通し

ディスポ品の再製造が認められれば、高額な単回使用製品を作っているメーカーにとっては大きな打撃となりかねません。
医療機器全体の中で、再製造に適していると考えられる機器類は、1割程度と言われています。
そして、欧米での再製造品の販売価格は、オリジナルの50%~70%ほどだそうです。
自社製品の再製造を他社にされてしまえば、売り上げの減少は避けられません。

実際、欧米では当初、医療機器メーカーが再製造に対して反対していたようです。
その後メーカーが、再製造業者を買収してからは、反対まではしなくなったそうです。

ディスポ品の再利用が制度化すれば、再製造品という形で、オリジナル品の廉価版が多数世に出てくるのでしょう。
メーカーとしては今後、再製造しにくい仕組みや機構を組み込んだ商品を出してくるのでは、という気がしています。

ディーラーにとっては、再製造品が流通することで売り上げが減少する恐れもあります。
しかし、現在病院が独自に行っている再使用が無くなるのなら、販売数も増加が見込めるため、それほど大きな影響は無いのではとも思います。

今後日本で、再製造品はその病院限定だけの販売となるのか、それとも単にオリジナル品の廉価版かのように色々な病院へ販売されるのか、国の動向に注目していく必要があります。

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