Iの悲劇(小説・米澤穂信)紹介・感想

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前書き

このブログで「小説」カテゴリの新規投稿は、約4年ぶりとなります。
小説や漫画は日々読んでいるのですが、アウトプットするタイミングを逸してしまっていることが多く、わざわざ記事にしていないことが多いです(面倒くさがりとも言う)。

ゲームなどの紹介記事を書く際は、皆にこんな面白い作品があるのだということを伝えたいという気持ちがモチベーションの多くを占めています。
そのため、有名な作品の場合はどうしても「自分が紹介しなくても、みんな面白いことは知っているだろうな」と思ってしまい、記事にしないことが多いです。
というわけで、普通に出版されている有名なものは、強く書きたい衝動に駆られない限り、書くことはあまりありません。

今回、米澤穂信さん(以下敬称略)の『Iの悲劇』を読んだきっかけは、このミスで1位を取った『可燃物』という作品を知り、読もうと思ったことがきっかけです。
しかし『可燃物』や『黒牢城』を買おうと思いAmazonで調べると、ハードカバーで結構高かったので、文庫版や安い中古が出るまで待とうと思い、今回の購入は思い留まりました。

ただ、これまで読んでいない作品でお求めやすい本がないものかと見ていたら、本作『Iの悲劇』(アイのひげき)があったため、読んでみようと思い立ちました。
今まで米澤穂信作品を多く読んできましたが、個人的にはハズレは無かったので、今回も期待して読みました。

紹介(ネタバレ無し)

本作のあらすじについて簡単に紹介します。

無人になった「蓑石」(みのいし)という集落に、移住者を募って再興するというプロジェクトが、市によって始まりました。
そのプロジェクトを担当する「甦り課」に異動となった主人公・万願寺は、やる気のない課長&新人と一緒に、一癖も二癖もある住民のトラブルに対応してきます。

本作は、プロローグとエピローグを除くと、全部で6章で構成されています。
それぞれの章は時系列順となっており繋がっていますが、1章ごとでエピソードとして完結する作りになっており、少しずつ読み進めやすくなっています。

形式としては社会派ミステリに属すると考えられます。
住民によって引き起こされた不可解なトラブルについての謎を解き明かし、各エピソードは終わります。
ただし、主人公サイドは市役所に勤める公務員であるため、普通の探偵小説のように犯人を指名して警察に突き付ける、という解決方法ではありません。
そもそも市役所のいち担当者に事件を解決する義務はありませんし、する必要もありません。
そして、真相がわかったところで、必ずしも事態が好転するという状況ばかりではありません。
そのあたりの個別の事情や状況、そして主人公・万願寺の事件に対する態度などが、本作ならではの面白さだと思います。

 


自分の中の「蓑石」のイメージ(AI生成)

感想(ネタバレ多少有り)

本作のエピソードは個別に解決を迎えますが、エピローグではすべての事件が1つに集束していく展開が見られます。

個々の事件は、いわゆる日常ミステリ(といっても犯罪行為もありますが)に近いものです。
しかし最終的にはそれらの事件がつながっていき、一気に社会派ミステリへと変貌していくのが強く感じました。
個々の人間同士による事件のはずなのに、ある思惑により、統合された意味を帯びてくるダイナミックさに驚くと同時に、腑に落ちる感覚がありました。
個別のエピソードの解決編でもカタルシスはあるのですが、エピローグによって真の完結を迎えるという感じでした。

本作の中で、どうあっても寂れていく蓑石という土地の、抗いようのない無常さが心に強く残っています。
集落の風景や土の匂いが伝わってくる米澤穂信の描写により、人の手から離れ始めている寒村のイメージがありありと伝わってきました。

どこか冷めて現実的なところがありながら、決して感情がないわけではない万願寺は、現代社会のサラリーマンとして一般的な態度であるというように感じます。
客に対して面倒だなと思いながらも、感謝されれば嬉しい、可哀想だと思えば悲しい、そしてそれなりに理念は持っており、人並に出世欲があるという部分に、他人事とは思えない共感を覚えました。

 

【この先、ふんわりと結末に言及しているためご注意ください】

だからこそ最後のシーンには、僕自身、何とも言えない無力感を覚えました。
大きな流れによって世の中が動いていき、個人の努力や感情は、その流れの中で些細な揺らぎを作り出すに過ぎない。そういったやるせなさ、無力感というものを強く感じました。
そして、黒幕たちに大義名分があり、いくら言い訳をしようとも、現に存在する人間の人生を弄ぶようなことは許されはしないでしょう。
黒幕たちに対する万願寺の思いには、怒りというよりは寂しさが感じられました。
一応は仲間だと思っていたのに、という疎外感のようなものです。

ただ、蓑石での出来事は、呪いや祟りというものではなく、紛れもなく人によって成されたということには、少し救いがあるといえるのかもしれません。
超常的な力ではなく、人によって引き起こされたものであるなら、何かやりようはあるはずであり、変えられるものだからです。
寂寞感の強いラストですが、無理やり前向きに考えようとすると、このような考え方になるでしょう。

作風やプロローグの出だしからして、明るいハッピーエンドなど望むべくもない作品でしたが、やはり期待通り(?)の結末で、面白かったです。

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