アキレスと亀(小説・清水義範)感想

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今回、清水義範の作品「アキレスと亀」を読みました。
清水義範の作品に手を出すのは、十数年振りで、とても久しぶりです。
本題に入る前に、清水義範という作家について紹介しておこうと思います。

清水義範作品との出会い

清水義範の作品自体は、僕が高校生だったころ、父の蔵書にあったのを読んだのが初めてでした。
その時に読んだ作品は、彼の代表作と言っても良い「蕎麦ときしめん」でした。
東京人から見た、名古屋人に対する偏見について色々と書いてある内容で、馬鹿げた内容なことがもっともらしく書かれているので、思わず笑ってしまいます。
作者自身が生粋の名古屋人ですから、その内容は自虐ともとれる内容です。
しかも、あながち間違ったことを言っていない(ように感じられる)というのが面白いところです。
「トヨタ以外の車には乗らない」、「中日の選手がエラーをすると、たわけ、たわけの大合唱が起こり、相手チームのチャンスには、ビール瓶や石ころ、ういろうを投げる」などといったくだりには、大爆笑してしまったものです。

最近、名古屋を応援する漫画原作のアニメ「八十亀ちゃんかんさつにっき」が放映されて好評だったそうなので、今こそ、名古屋に興味を持った人に読んでほしい一冊です。

清水義範作品の特徴

清水義範のルーツはSFですが、「パスティーシュ」と呼ばれる手法を使った作品が多いという特徴があります。
パスティーシュはフランス語の直訳で「作品(作風)の模倣」を意味するそうです。

どういうことかというと、例えば彼の「永遠のジャック&ベティ」という作品を例に出してみます。
ジャックとベティは、中学英語の教科書でお馴染みの登場人物なのだそうですが、二人が50歳で再会したときの様子が描かれます。
教科書で二人は、英語を日本語に訳した直訳風の言葉で会話しています。
「こんにちは、ベティ」「こんにちは、ジャック」「あなたは元気でしたか?」「はい、わたしは元気です。あなたはどうですか?」・・・というような具合です。
このぎこちない会話で、湿っぽい話題も話すのですから、そのギャップが妙におかしくて笑ってしまいます。
これはつまり、英語の教科書の作風(文体)を模倣しているということなんだと思います。
単純に「パロディ」という言葉に置き換えても、わかりやすいと思います。

他にも「蕎麦ときしめん」に収録されている「英語語源日本語説」という作品も、ふざけているかような説を論文という堅い文体で描いてあるのが面白い作品です。
googleで「英語起源日本語説」と検索すると、この作品を本当に論文っぽく書いたようなpdfが出てきます。
原作とは少し違う内容もあるような気がしますが、まさにこのような感じで笑えます。

他にもお勧めの作品は、「国語入試問題必勝法」というものです。
内容は、家庭教師の先生が生徒に解き方を教える内容の物語です。
テクニックで国語の問題を解こうとするのですが、それが行き過ぎており、皮肉に感じられて面白いです。
学校や教育に絡めたネタ作りの面白さは、清水義範自身が教育学部の出身ということによる部分が大きいでしょう。

「アキレスと亀」収録の各話感想

さて、ようやく本作「アキレスと亀」についてです。
本書は1989年に刊行された短編集ですが、古臭さはあまり感じません。
若干、時代を感じる点もありますが、それが面白味を損なっているということはないと思います。

パスティーシュ形式の作品は、とりあえずのオチがあるものの、そのオチは大きく落とす感じではありません。
その雰囲気を描き切りつつ、場面をそこで切る程度の終わり方なので、大きなオチを求める人には少し弱いと感じるかもしれません。
以下、感想を書いていきます。

 

・決裂
日本の外務大臣と、他国の首相との会談の話です。
通訳を通すことで、非常に回りくどい言い方になっている点と、こじれていく感じが面白いです。

・偏向放送
NHKがDHK(大日本放送協会)に変わった時代の話です。
マラソンの実況のパスティーシュ作品です。
思いっきり日本選手びいきをして、他国選手をディスりまくっているのが笑えます。

・パーティ
ある一家のホームパーティの話です。
仕事内容がふわっとしている参加者たちが、最終的にお互いをけなすところが笑うところなのかなと推測します。
あまりピンときませんでした。

・醉中動物園
動物園の新年会の話です。
各飼育係が酔いながら園長に、担当している動物の扱いの格差を訴えます。
確かに裏側でこういうことはありそうだと感じさせられる面白さでした。

・イヌ物語
飼っている犬たちのことについて順番に記している日誌形式の作品です。
しんみりしてしまう部分もあれば、そんなバカなと思うような箇所があります。
特に大したオチは無いです。

・復讐病棟
他の作品とは打って変わって、不穏な空気がどんどん広がっていくホラーです。
「世にも奇妙な物語」でも15分ほどの作品として映像化していますが、終わり方の印象は原作とまるで違います。
どちらも良い味を出しているので、可能なら両方見比べることをお勧めします。
この短編集の中では異色ですが、傑作だと思います。

・超現実対談
雑誌などでよく見る有識者同士の対談集の裏側を描いた作品です。
題材としてはなかなか面白かったです。

・花里商店街月例会議
商店街の会議ではこんなことが話し合われているのかな、という内容でした。
最後のオチに使われる店舗に、少し時代を感じました。

・アキレスと亀
少し昔の時代を意識する内容で、作者の随筆的な視点で描かれています。
ただ、男の先輩が女の後輩に、仕事のことであれこれ教える話です。
ある意味、今でも共感を覚えるような、普遍的な内容だと思いました。

まとめ

「アキレスと亀」は、清水義範の作品の中で、最もお勧めする短編集というわけではありません。
しかし、清水義範の作品の雰囲気は掴みやすいですし、「復讐病棟」のような怖い系の話も収録されています。
読んでみると、一定の満足感は得られると思います。
物足りなく感じる人もいると思いますが、そういった人には「蕎麦ときしめん」や「国語入試問題必勝法」を強くお勧めします。

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