漫画「トリガー」(原作:板倉俊之、作画:武村勇治)全5巻完結 紹介・感想

漫画
この記事は約11分で読めます。

前書き

今回紹介するのは、お笑い芸人コンビ「インパルス」の板倉俊之氏が書いた小説「トリガー」を原作とした漫画です。
読んでみたきっかけは、電子書籍のアプリです。
自分に対してオススメする漫画のリストの中に本作「トリガー」があり、何となく目に付いたのが最初だったと思います。

芸人が書いた小説と言えば、ピース・又吉直樹氏の「火花」をよく耳にします。
しかし、自分は板倉氏が小説を書いていたとは全く知らず、「トリガー」に対して興味を持ちました。
小説自体は、2009年に出版されていたようです。

インパルスの板倉氏は好きな芸人の一人ですし、趣味がミリタリー関係やゲーム系ということで、何となく勝手に親近感を持っていました。
コントのネタの内容も、展開や言い回しが結構テクニカルな印象があって好きだったという理由もあります。
そんなわけで、原作小説は未読ですが、漫画という読みやすい媒体で、軽い気持ちで読み始めました。

結論から言うと、とても面白かったです。

作品概要

「トリガー」は、近未来の日本を舞台とした作品です。
あらすじは、以下のような内容です。

西暦2028年。
国内の諸問題を全く解決できない国会議員たちに嫌気が差した日本国民は議院内閣制を打倒し、新たに国王制を導入する。初代国王の坂本は国民の支持を裏切って権力と私欲で国を荒廃させるが、軍人の1人・冴木が反乱軍を結成して立ち上がった。
坂本を公開処刑によって打倒し、2代目国王となった冴木は、日本から犯罪を無くすべく「射殺許可法」を制定し、「悪」と認定した人間を即刻死刑にできる執行人「トリガー」を各都道府県に1人ずつ配置することを決定する。こうして、トリガーとなった者たちのさまざまな活動と顛末が描かれていく。

(wikiより引用)

本作「トリガー」は、各都道府県のトリガーたちに焦点を当て、オムニバス形式で描かれていきます。

例えば、第2話から第5話で描かれる人物は、東京のトリガー「三上和也」です。
そして第6話では千葉県のトリガー「吉岡秀雄」が描かれ、第7話から第9話では「山崎重」が描かれます。
このように、一人の主人公を軸にずっと進んでいくわけではなく、色々な人物の視点で語られていきます。

トリガーとなった者には、色々な人物がいます。
それぞれ考え方も違いますし、様々な事情があります。
他人を自由に射殺してしまえるという、圧倒的な暴力を手にした者たちの人間ドラマが、本作の見所の一つでしょう。

 

さて、作画を担当する武村勇治氏は、劇画タッチの絵柄で描く漫画家です。
例えるなら、「北斗の拳」の原哲夫氏のような、線が太く男らしいキャラクターが特徴的です。
大体の悪人は分かりやすい悪人面をしています。

また、どうしても射殺するシーンが多くなるため、額を撃ち抜かれたりするグロテスクな描写は多くなります。
といっても、必要以上に過剰な残虐表現があるわけではなく、ある意味あっさりとしています。
人の体が破裂したりする「北斗の拳」の方が、グロテスク度は高いくらいでしょう。

感想(少しだけネタバレあり)

「悪人を自由に殺せる権利を持った存在」というシンプルな舞台装置を背景に、様々なバリエーションの人物を描き切った作品でした。
ある意味、子供の思い付きのようなダークな発想ですが、誰でも考えたことがあるような発想なので、多くの人が痛快に感じるのだと思います(デスノートのように)。

最初のエピソード「三上和也」は、トリガーという存在を説明するための、ある王道的な内容です。
おそらく読者が想像する、平均的なトリガー像というべきエピソードが示されています。

しかし、このエピソードを読んで、満足してしまってはいけません。
先へ進めば進むほど、加速度的に面白くなっていきます。

三上和也のようなトリガーもいれば、与えられた権利の行使を躊躇うトリガーや、悪用しようとするトリガー、精神を病んでしまうトリガーなど、様々なタイプがいます。
読者を飽きさせないように、色々なトリガーが登場していき、様々な道徳的難問を投げかけて来ます。
単に勧善懲悪を描いた作品ではなく、とても色々なことを考えさせられる作品です。

それと個人的に好みなのは、ストーリーが決して説教臭くないのが良いです。
この人の考え方はこう、あの人の考え方はこうというように、色々なパターンを示しているような見せ方なので、そこは押しつけがましくなくて好きでした。

高尚なテーマを込めようとしているわけではなく、あくまでエンターテイメントをメインに据えているように感じます。
いつも客を楽しませようと考えている、芸人ならではのセンスなのかもしれません。

「リアル鬼ごっこ」などを書いた山田悠介氏も、基本的に作品にメッセージを託さず、面白いか面白くないかがすべてと言っています。
舞台設定も山田氏の雰囲気と似ているところがあり、共通する部分だと感じます。

読み進めていくと終盤は、独立したエピソードに見えた話が、実は他のエピソードに絡んでいたり、今までのトリガーが再登場したりもします。
中には、テクニカルなトリックを盛り込んだエピソードや、叙述トリックなど、あの手この手で読み手にサプライズを与えてくれます。
本当に小説を書いたのはこれが初めてなのか、と驚きを禁じ得ません。

感想(ネタバレ有り)

各エピソードについて、読みながら思ったことなどをを気ままに書いていきます。
全巻読んだことが前提のネタバレがありますので、ご注意ください。

第1巻

・三上和也
トリガーの設定を説明する導入的なエピソードです。
電車の男やタクシー運転手など、殺すほどの悪人かなとは思いましたが、正義感の強い人間ならやってしまうのかなとも感じました。
単なるアウトロー的な存在と思っていた三上ですが、後の巻で職業が明かされたときには、してやられた感があります。
幼いころ母親を失ったことも明記されており、これが最終巻への伏線だということに、後から読み直して気づきました。

後半は、情にほだされそうになる場面もありましたが、やはり三上は三上で確固たる信念があり、それを貫き通すラストは格好良かったです。

・吉岡秀雄
警察に対しても振るうことができるトリガーの恐ろしさが垣間見える1話エピソードです。
やけにあっさりしてるなと思いましたが、後にもう一度出るとは思っていませんでした。

・山崎重
殺す側のトリガーの業と、その遺族たちの怒りが描かれるエピソードでした。
確かに、ある人にとっては悪人であっても、その遺族から見れば、撃ち殺した側のトリガーは、家族を撃ち殺した殺人者でしょう。
悪人であっても、誰かを殺すのであれば、自分また同じように殺されるかもしれないことを再認識しました。

国として、任期を終えたトリガーでも守る仕組みを作らなければ、危険そうです。
もっとも、トリガー試験は志願制なので、初めからこのような覚悟は必要なのかもしれません。

第2巻

・木戸奈々子
青年、男性、老人と来て、次は女性という、ある意味順当なバリエーションの流れです。
埼玉県に入ってから撃つ辺りに、トリガーの設定がしっかり活用されていて良かったです。
それにしても、撃ち殺さないのは彼女の優しさかもしれませんが、男にとって急所である股間を撃ててしまうのは、彼女が女性だからでしょうか。

・永井悠紀夫
トリガーの権利を使えない、気弱な教師の成長物語かと思いきや、病んでしまうトリガーの話でした。
彼がなぜトリガー試験に合格したのが謎ですが、ある意味、一般的な人と同じ、まともな精神の持ち主なのかもしれません。

・加瀬智彦
トリガーの力を持ってても、どうもならないことがあるということがわかるエピソードでした。
最後の加瀬の選択は重く、唯一僕も泣いてしまったエピソードです。
それにしても、深夜に「神ぃぃ!!」と叫ぶゴッドハンドの先生、本作品で一番印象に残っているキャラクターかもしれません。

第3巻

・大内雅人
一番好きなエピソードかもしれません。
トリガーを使わずに耐える主人公と思いきや、実は毛利がトリガーという展開は、かなり意表を突かれました。
愛知県のトリガーという、地理的な設定も上手く利用した物語の組み立てで、かなりテクニカルな話でした。
こういうのが、僕は一番好きなんだなぁと再認識しました。

・藤井涼太
主人公がトリガーを憎むという展開で、遺族側の視点が新鮮なエピソードでした。
トリガーが敵役として描かれており、そりゃ遺族からの憎しみの対象になるよな、というのがよくわかりました。

・桜井友紀
藤井涼太編の、裏シナリオのような形で、真相がわかっていく話でした。
本物のトリガーは、実は自分の恋人だったという、ロミオとジュリエット的なロマンスも絡んでセンチメンタルな話でした。
ハッピーエンドで終わってほっとしました。

第4巻

・北条圭司
依頼によって悪人を殺していくという、殺し屋的なエピソードでした。
字面からも、北条司氏の「シティーハンター」を連想させるような内容でした。
北条の主人公っぽいキャラクターが、トリガーの正体のミスリードとなっており、意外性がありました。

・宮沢沙耶花
藤間をトリガーと勘違いして、結局トリガーではないオチなのかなと思いましたが、そうではありませんでした。
誰も殺させないために自分がトリガーになる、という方法もあるんだなと思いました。
射殺許可法に反対だという、強い信念を持っているからこそ、選ばれたのかもしれません。

・日浦昇一
トリガーかと思いきや、トリガーではないという変則的なストーリーでした。
やっていることはトリガーと同じなのに、その権利を持っているかどうかというだけで、罪になる・ならないが変わる矛盾が浮き彫りになります。

・沢田隆則(4巻~5巻)
トリガーの力を直接的に奪い、成り代わることが可能だというエピソードでした。
1巻で少し語られただけの吉岡は、少し可哀想だなと感じます。
かなりわかりやすい悪ではありますが、表面的には射殺許可法に則っているため、国王であってもうかつには手出しできません。

そこで三上が登場し、トリガー対トリガーという構図で燃える展開になります。
しかし早く沢田を倒さなければ、東京から千葉に入ってしまうため、三上が撃てなくなってしまいます。
高跳びに、千葉県の成田空港を使用するということを考えると、吉岡が千葉のトリガーだった設定が生きてきます。

千葉に入ったことで、東京都のトリガーである三上の銃は使えなくなり、千葉のトリガーである沢田の銃が使用可能となります。
ここからどのように倒すかと思っていたら、三上がもう一つの銃を取り出して撃ち、沢田を倒します。
トリガーとしては撃てない三上でしたが、「刑事」として、相手の自白を引き出して、正当に撃てるような状況にしたのは、クレバーで舌を巻きます。
最初に三上が登場したとき職業は何なのか語られませんでしたが、ここで効果的に明かされ、この作品の凄さを再認識しました。

このエピソードは、大内雅人のエピソードと同じくらい好きです。

第5巻

・村川哲男
この作品の根幹である「射殺許可法」に抗う、矛盾した存在の村川が描かれます。
因果応報という訳ではないですが、冴木が作り出したトリガーによって、冴木自身が撃たれるというのは覚悟の上とはいえ、負の連鎖だと感じます。
「悪い奴が死ぬ 何がいけないんだ・・・」と語る冴木ですが、その純粋すぎる思想は、社会にとって劇薬だと思います。

悪人を殺す役割を個人が担ってしまうと、その憎しみはその個人に集中し、新たな憎しみを生み出します。
現実世界の日本では、犯罪者に対する死刑は個人が行うものではなく、法律というシステムが担うものです。
死刑という殺人を、システムが粛々と執行するようにしたのは、人間の知恵だと思っています。

・三上和真
最後、村川は三上和也を殺しに来たと見せかけて、冴木(三上和真)を射殺します。
主人公的な存在だった三上と、国王・佐伯が兄弟だったということや、これまでのバックボーンが語られます。
例え悪人であっても、人を殺すということは、巡り巡って自分自身や、自分の大切な人を殺すということにもつながるということが提示され、やはり射殺許可法は間違いなのではということが示されます。

そして、僕の好きな毛利源十郎が再登場し、射殺許可法は間違いだったと説きます。
しかし、そこで発表されるのは、各都道府県だけでなく、市町村にまでトリガーを置くという、射殺許可法をより進めた内容でした。
これにより、ここまで語られてきたエピソードのような出来事が、無数に存在するようになるのでしょう。
そうなれば、おそらく毛利も今までの国王と同じ道を辿るのかもしれません。

そんな中、三上は今日もトリガーとして新しい武器を引っさげて、これまで通り悪人を撃っていきます。
おそらくマシンガンはH&KのMP5Kでしょう。
変にマニアックな銃でなく、定番で信頼性が髙い銃であるところに、板倉氏のこだわりが感じられます。
三上は、結局最初から最後までブレないキャラクターなので、完成されて魅力的なキャラクターだと感じました。

終わりに

僕の印象ですが、本作「トリガー」は、射殺許可法がいけないとか、個人の考えで人の命は簡単に奪っていけないとか、そういうことを言っているわけではないと思っています。
ただ、自分のルールで他人を殺すのであれば、自分や周囲の人間が同じ危険に晒されるという覚悟が必要なのだと思います。

トリガーとして試験を合格した者たちは、やはりその辺りの信念や覚悟がある(またはその素質がある)のではと思います。
そう考えると、試験を受けたわけではない沢田が、ただの小悪党のようになるのも納得です。
トリガーとして誰も撃たない藤間も、例え自分が命の危機に晒されたとしても、絶対に撃たないという信念があるのではと思います。

ちなみに僕が好きなトリガーは、三上和也、岸本陽平、毛利源十郎です。
岸本は、撃つときにはキリっとする意外性がお気に入りです。

本作は、個別のエピソードを描きながら、物語が螺旋のように進行していき、色々な伏線が絡んでいくというものでした。
このような形式の作品は好きなので、これほどハマってしまったのだと思います。

分かりやすいテーマでありながら、色々と考えさせられる部分があり、しかもエンターテイメントとしてとても楽しめる作品です。
実写化していても良さそうな気がしますが、今のところ(2020年6月現在)そういう話は聞きません。

もし実写化するなら、三上が主人公でずっと続いていく形式ではなく、本作のように1時間ドラマで主人公が変わっていく形式でやってほしいなと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました