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黒牢城(小説・米澤穂信)紹介・感想

小説
この記事は約5分で読めます。

前書き

僕が好きなミステリ作家の一人である米澤穂信氏が2021年6月に出した小説『黒牢城』の紹介記事です。
前から読みたいとは思っていましたが、自分にとってなじみがない戦国時代が舞台という理由で、購入を後回しにしていたものです。
少し前に通販サイトで別の書籍を購入する機会があったのですが、送料が無料になる購入金額まで上積みしたかったので購入に加えました。

読んでみると、取っつきにくい部分はあるものの、読めば読むほど虜になっていくような、そんな内容でした。
歴史系の読み物に馴染みが無い僕であっても、どっぷり引き込まれるくらい面白い作品であると思います。

 

紹介(ネタバレ無し)

時は戦国時代、有岡城(大阪府の寄りの兵庫県、現・伊丹市)に籠城する武将・荒木村重を主人公として序章~終章の全6章で書かれています。
村重は信長の臣下でありながら叛旗を翻し、籠城しながら毛利氏の援軍を待っているという状況です。
章ごとに内容は完結している作りですが、章が進むごとに状況が進んでいき、終章前の第四章では、これまでの事件が全体としてどういう意味を持っていたのかが明かされます。

有岡城は堅く守られ兵糧も十分であり、敵に包囲されているといっても、危機に直面しているわけではありません。
しかし城内では、ちょっとしたことがきっかけで、降伏した方が良いのではという空気になってしまってもおかしくなく、目に見えない緊張感があります。
村重はそういった火種を前もって潰していけるように、常日頃から油断なく職務に当たっており、その様子が子細に描かれています。

本作では、城内で様々な事件が発生します。
その事件は、全て何らかの不可解な謎が付帯しており、それを解き明かすことが出来なければ、籠城を続ける上で差し障りがある構図になっています。
普通のミステリであれば、「人が死んだ→犯人を見つけなければならない」と、謎を解かなければいけない理由がほぼ自動的に成立します。
しかし本作では戦国時代ということもあり、人の死そのものは珍しいことではありません。
そして城主である村重は、たとえ真相が判らなくとも、事件を沈静化させて終わらせる権力を持っています。
そのため、なぜその謎を解かなければいけないのかという点については、かなり丁寧な描写されています。
この描写により村重の考え方や当時の哲学が自然と理解でき、リアリティが感じられます。

事件が起きると最終的に村重は、有岡城に囚われている黒田官兵衛に相談に訪れます。
黒田官兵衛は織田方の軍師ですが、序章で村重を説得しに訪れた際、とある理由により牢に収監されてしまいます。
土牢に長期間閉じ込められ、ぼろぼろにやつれている官兵衛ですが、その頭脳の切れ味はまったく落ちません。
自分を殺してくれと訴える官兵衛の願いを聞き入れず、生かしている村重としては、相談というよりも、謎を解いてみせよという強権的なスタンスです。
しかし官兵衛は囚人でありながら、人を食ったような物言いで、1つ2つヒントを出すのみです。
最終的には村重がヒントを基に自分で真相に行きつくことが多いですが、単純な関係性ではない二人の会話も見所です。

 

感想(ネタバレ無し)

とても味わい深く面白かったです。
当時を生きる人間の生活や考え方が事細かに描写され、これは歴史小説かなと思いながらも、いや確かにこれはミステリだ、と得心がいく作品でした。

形式的には、安楽椅子探偵に分類されるミステリだと思います。
官兵衛が探偵役、村重が探偵に事件を持ち込むワトソン役という形です。
ミステリ作品は、事件が発生すると、解くべき謎がどんな内容になるかは大抵想像がつくものです。
しかし第二章「花影手柄」では、こんな理由でこれが謎になるのか、という驚きがありました。
戦国時代だからこその内容であり、舞台設定が生かされていると感じました。

事件そのものも見ごたえがありますが、籠城しながら援軍を待つという軍記物語としての面白さも十分ありました。
援軍は来るのかどうか、どういう手を打つべきなのか、内部に裏切り者はいないのか、と城主ならではのサスペンスとしても興味深く、緊張感がありました。
歴史物ということで、個人的には馴染みは薄かったのですが、読んでいくと、自分の好物である中世の軍記物と変わらない面白さが見いだせて、新たな楽しさが発見できた気がします。

巻末の参考文献を見る限り、時代考証がかなりなされていると感じます。
戦国時代はこんな雰囲気だったのだな、とそのまま鵜呑みにしても良いという信頼感がありました。
米澤氏の作品『折れた竜骨』は魔術が存在する世界観のフィクションでしたが、中世イングランド付近の空気・生活感が肌で感じられるような描写が特徴的でした。
また氏の『王とサーカス』の舞台となったネパールの描写も、同様の説得力がありました。
本作では、それらの作品と同様に、戦国時代のリアルな空気が感じられました。
本当の戦国時代を体験している人はいませんが、それでもこれがそうなのだと感じられるような説得力があります。

 

後書き

450ページ弱の単行本ですが、大きな満足感が得られる作品でした。
事件をを解決するカタルシスは当然として、それを踏み台にもっと大きなものを描いていると感じられる作品でした。
他にも、僕の歴史物(日本)に対する食わず嫌いを正してくれたような効果もあったと思います。
ここ最近、少し読書(漫画を除く)から離れていましたが、やはり小説は小説の良さがあっていいなと思い出すことができました。

今後も、せめて好きな作者の新作は、周回遅れとなっても追っていけるといいなと思います。
ミステリが好きな人・歴史物が好きな人には、特に本作をお勧めしたいと思います。

 

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