ありはらありー氏によるビジュアルノベル『スクリーンメモリー』をプレイしました。
複数の異なる視点から物語を追うことで、同じシーンでも違う見え方が楽しめる作品です。
読み手をミスリードする構造となっており、どんどん読み進めたくなるような工夫が施されています。
クリア時間は約3時間でした。
ゲーム概要
あらすじは以下の通りです。
(「ノベルゲームコレクション」のページから抜粋)
まずは利一の母の死から始まる導入部が、静かに描かれます。
ノベルゲームではよくある、学生が主人公という設定ではありません。
舞台が学校というわけでもない成人男性なので、一般小説のような落ち着いた雰囲気で進んでいきます。
最初のエピソードに関しては途中選択肢が挿入されるシーンがあり、その後の展開が変わります。
といっても大きくルートが分岐するわけではなく、程なくエンディングへと至ります。
直前ではセーブをしておき、両方の選択肢を試すと良いでしょう。
感想(作品全体の構成に言及する箇所があります)
ゲームとしてはシンプルなノベルゲームです。
たまに選択肢があるというだけなので、物語を読むことに没頭できると思います。
前項でも言及しましたが、本作は最初の導入が母の葬式の直後という時点からスタートします。
ライトノベルのような明るい雰囲気ではなく、作品の根底に仄暗い何かがずっと流れているような印象を受けます。
利一の抱えている躁鬱病と相貌失認(失顔症)というのも陰鬱な雰囲気の一因だと思います。
相貌失認のせいで、彼の視点ではキャラの立ち絵の顔が塗りつぶされて表示されます。
顔が塗りつぶされたグラフィックは見ていると不安になり、読み手に不穏な印象を与えてきます。
Sの何者なのかという目先の謎に加えて、なぜこういった症状になったのかという点についても気になり、読み進める手が止まりませんでした。
最初のエピソードでは、導入部の利一の話が終わると、その後は高校生の菫玲(すみれ)という人物に視点が変わります。
高校生ですが、彼もとある事件の渦中にいる状況であり、明るく楽しい雰囲気ではありません。
しかし高校生ということで同世代の友人が登場し、終始孤独な雰囲気の利一よりは、若干前向きに感じられるかもしれません。
本作のエピソードは大きく3つに分けられており、1つクリアするごとに新たなものが追加されていきます。
1つ目は前述した利一+菫玲のシナリオで、いわば本作の表層の部分をなぞったものと言えるかもしれません。
2つ目・3つ目は、それぞれとある人物に注目して掘り下げたシナリオです。
1つ目のシナリオと共通するシーンは多いですが、2・3のシナリオを読むことで印象が全く異なるものとなり、そこがとても面白かったです。
一点だけ残念だった点は、テキスト速度が変えられるコンフィグが無かったことです。
文章表示速度を早い方が好きなので、変更できるとより快適だったと思います。
(スキップは可能)
感想(ネタバレ有り)
ここから先はネタバレのある内容です。
物語を読む前に閲覧することはお控えください。

最初に利一のエピソードが不穏な感じで終わったあと、菫玲のエピソードに移ったので、一連の誘拐犯は利一なのかなとミスリードされていました。
そして「朱を奪う紫」での菫玲視点だと、ワゴン車の件から倖司さんが怪しく見えるので、利一=倖司さんなのか? とかいろいろ考えながらプレイしてしまっていましたが、全然違いました。
「トリカブト」で犯人視点で始まり、こういうことだったのかと納得しました。
犯行を終えた後の死体処理など、かなり緊張感があって読み入ってしまいました。
「朱を奪う紫」でも「トリカブト」でも、紫蘭さんが得体のしれない人物のように描かれており、何かしらの黒幕だったのかな? と思いましたが、最後の「妄執の花」では割とみんなのために影で頑張ってくれていたので思っていたような悪人ではありませんでした。
むしろ利一の母の紫苑にされた所業からすると、人生を結構狂わされた被害者と言えるのかもしれません。
しかし最終的には紫蘭の思惑通り利一が町に来てくれて、形式としてはあるべき場所にみんなが集まったので、良かったのかなと思います。
利一と美蘭の関係は、明かしても誰の得にならないことなので、紫蘭が永久に隠しておくのが良いのでしょう。
この一連の事件の原因となった要因は、直接的には紫蘭の母・鶴見と言えるのかもしれません。
信者からお布施を集め続けていたせいで菫玲の家庭は壊れてしまいますし、紫苑への迫害が凶行へと走らせる遠因となっている気がします。
しかしもちろん一人だけが悪いという話でもなく、妄執が伝染していき何らかの影響を及ぼしていると思います。
今後、美蘭が何かのきっかけで利一との関係を知ってしまったりすると、鬼が宿ったりということもあるかもしれません。
また、菫玲のいずれ外に出てくるでしょうし、めでたしめでたしで終わっているわけではありません。
しかしひとまずは、長い時を経て夫婦+子という形に収まったということで、良い終わり方だったのだと信じたいです。
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