サークル「影法師」様によるビジュアルノベル「闇を奔る刃の煌き」の紹介・感想記事です。
本作は、2011年に有償(1000円)にて頒布されていたノベルゲームです。
公開から10年経過したとのことで、2022年1月にフリーゲームとしてダウンロードできるようになっていました。
「ふりーむ!」にて初めてこの作品を知り、気になったためプレイしました。
もともと有料で公開されていた作品が、無料でプレイできるならお得だなと思うくらいの軽い気持ちで始めたのですが、とても面白く衝撃を受けた作品でした。
クリア時間は、約9時間でした。
ゲーム概要・感想(ネタバレ無し)
本作は、文章を読むことで進行していくビジュアルノベルゲームです。
基本的には選択肢は存在せず、文章、グラフィック、音楽を楽しみながら読み進めていく作品です。
サークル「影法師」様の2番目の作品であり、2008年の公開作品「流れ落ちる調べに乗せて」の前日譚に当たるそうです。
本作は2番目の作品ですが、時系列的には本作「闇を奔る刃の煌き」が1番目ということもあり、どちらを先に読むか迷った場合は本作を先にプレイすることがお勧めされています(ふりーむ紹介文による)。
貧乏な若侍・片倉重蔵(かたくらじゅうぞう)が、商家の娘・中村蛍(なかむらほたる)に、初対面で求婚するところから物語は始まります。
いきなり求婚して口説き出す重蔵も重蔵ですが、それを受けてしまう蛍も蛍です。
一味違う二人とその周囲の人々を取り巻く事件を中心に描かれていく作品です。
内容としては、水戸黄門的な痛快さのあるエピソードもあれば、超常的な力や現象が登場するエピソードもあります。
共通するのは、どのエピソードでも大小のバトルシーンが存在することであり、どのバトルも手に汗握る戦いが描写されます。
一枚絵やエフェクトなどを効果的に使うことで、静止画であっても動きのある見せ方がなされています。
公式ホームページでの作品紹介では、「絵・音楽付きの紙芝居」という表現がなされています。
BGMについては、メインテーマとなるメロディを軸にシーンごとにアレンジされた曲が使われています。
アレンジによって別の曲のように聞こえるものもありますが、メロディのテーマが同様のものが多いため、全体的に統一感が感じられて耳に残りました。
作品は、全四話(+α)で構成されており、一話進むごとに順当に月日が流れていきます。
月日が流れていけば周囲の状況が変わり、登場人物もそれぞれ変化していきます。
物語が進んでいくテンポが良く、説明は地の文に頼り過ぎずにセリフとして書かれているため、くどくなく読みやすい印象がありました。
本作で中心となっている要素は色々ありますが、特に珍しいと感じたのは「夫婦」という関係性が描かれているということです。
恋人に至るまでの過程を描いている作品は多くありますが、夫婦になってからの関係性を描いている作品はあまり読んだことがなかったので、新鮮だと感じました。
また、時代背景が現代ではなく幕末なので、不自然さを感じさせずに描写するのが難しいのではと思うのですが、特に違和感なく読めたので凄いなと思いました。
そもそも史実とは違い世界ですしフィクションなので、僕はこういった作品に厳密なリアリティを求めてはいません。
とはいえ、時代設定にそぐわない言葉遣いや描写が多すぎると違和感を覚えてしまうのですが、そういったことは特にありませんでした。
本作では、リアリティと読みやすさのどちらを重視しているのかと言うなら、やや読みやすさに割り振っているバランスだと感じました。
作品の要素としては、幕末、バトル、成り上がり、伝奇モノ、異能と、様々なエンターテインメント要素が凝縮されている作品です。
読んでいるときは非常に楽しく痛快さを感じるのですが、最後まで読み切ったときの衝撃は、非常に苦さが感じられる、アップダウンが大きな作品だと感じました。
一話ずつまとまっていて読み進めて行く際にもキリが良いので、興味を持った方はまず最初のエピソードだけでも読んでみることをお勧めします。
感想(ネタバレ有り)
本項目では、本作のネタバレを含む感想を書いています。
これから作品を遊ぼうと思っている人は、本項を読まない方が楽しめると思うのでご注意ください。
・第一話 勝てば官軍
第一話のエピソードらしく、主要登場人物の人と成りや関係性が描かれ、続きを読んでいきたいという気持ちにさせられた話でした。
最後のクライマックスで、虎の子の証明書を、安井のような慎重な男が提示するのか少し疑問でした。
しかし権力と酒に酔っていてあまり冷静ではない部分もありましたので、無くはないのでしょう。
(この感想は第一話終了時に書いていたのですが、その後、第三話で安井自身が酒には強くないと語っていましたので、その点は合点がいってすっきりしました)
重蔵の戦闘力の高さも後半でようやく描かれ、それなりに頼れる強い主人公ということが描写されました。
・第二話 柔よく剛を制す
道場四天王と、蛍の身の上に焦点を当てたエピソードでした。
一話のラストで重蔵のバトルが多少描かれましたが、ほとんど奇襲のようなものだったため、重蔵の本当の実力というのはまだはっきりしていませんでした。
ですが冒頭の後継者決めの試合により、各メンバーの強さやタイプが描かれて、バトル的には満足しました。
小菊の異能の登場により、この作品にはこういう異能っぽいのも出てくるんだなと感じました。
小菊の異能自体は戦闘で凄い能力とまでは感じず、小菊が孤独だった理由としての役割が大きかったのかなと思います。
蛍の親父殿は、当初想像していたイメージと、この話が終わった後のイメージが大きく変わりました。
箱入り娘を囲って私利私欲のために政略結婚をさせるイメージでしたが、合理的な商人でありながら剣豪で、自分の決めたルールは守るタイプで好きになりました。
商人としても力があり、剣士としても最強クラスというのが強過ぎてカッコいいです。
蛍を連れ戻しに来た理由について、妻に平手打ちをされたからと冗談っぽく話していますが、重蔵の言う通り、妻に惚れた弱みの照れ隠しなんだと思います。
中村を蹴りで倒したところは非常に痛快なのですが、本作を最後までクリアした後に思い起こすと、全く別の意味を持っているという所が面白いと感じます。
白庵と哲哉の心の内は、この時点では分かりません。
・第三話 一寸先は闇
重蔵が本格的に商人として成り上がろうとしていくようになり、起承転結で言うところの転だとはっきり感じます。
四天王も各々それぞれの進んでいく道が見えてきて、話が進んでいるという感触があります。
商人としての話が中心になるので、バトルはあまりないのかなと思っていたら、まさかの安井と再戦でした。
一話では掘り下げが控えめだった安井でしたが、今回掘り下げられて見る目が少し変わりました。
憎たらしいキャラと感じていた安井でしたが、重蔵の未来の可能性の一つというように感じました。
・第四話 情けは人の為ならず
本作の集大成となるエピソードで、超常的な話が本格的に絡み始めます。
重蔵に子供が生まれて、義父である中村が、美味しんぼの海原先生のように強面のまま良いお爺ちゃんになっていたりする変化が良いなと感じます。
かなが善九郎を振った理由というのは、何となくわかる気がします。
善九郎が怒ったり泣いたりしている姿が想像できない、人として何かが欠けているように感じたというのは、確かにそうかもしれないと思います。
善九郎が普段から冷徹な人間であれば、見たままの中身ということでギャップは無いでしょう。
しかし一見、柔和な雰囲気で人付き合いしている善九郎だからこそ、一貫した合理性が不気味に感じられるのかもしれません。
蛍の父・中村が、見た目は厳格で言動は合理性の塊であるのに、中身はそれなりに情に厚いというのとは対照的であるように見えます。
蛍との別れが意外とさっぱりした描写で、お涙頂戴的な流れにはなっていないのが、個人的には好きでした。
「愛する人との別離」がメインテーマの作品であるならそのように描写されていても良いのですが、本作のような色々な要素をテーマにしている作品であるなら、これくらいの分量バランスでちょうど良かったと感じます。
最後はクライマックスでおとぎ話のような風景に、見物人と同様に盛り上がってしまいました。
息子の泣き声で守るべきものを思い出し、弥生を助けることに繋がったのも良かったと思います。
季節外れの蛍の姿を見て、めでたしめでたしと綺麗に終わったように思えたのですが。
・第 話
この作品をここまで読んできたプレイヤーで「いいえ」を選ぶ人はいないと思うのですが、「はい」と選んだことを後悔するような内容のエピソードでした。
確かに、第四話が終わった時点で気になっていたことがいくつかありました。
冒頭で哲哉が病に臥せっていたにも関わらず、その後どうなったかが描かれていない点。
蛍に触れた虚無僧の正体は何だったのかという点。
その2点が気になっていました。
蛍の元々の婚約者が誰だったのかということについては特に気になっておらず、本編とは関係のないモブキャラなのだろうくらいに考えていました。
そのため、哲哉がその相手だったと知ったときにはかなりの衝撃を受けました。
その他にも、善九郎が重蔵に譲った家が、自分が知らないうちに自殺に追い込んだ善九郎の両親の家であることや、白庵が出奔するに至った理由など、ことごとく自分が原因だったことを知り、大きく絶望することになります。
善九郎の考え方は確かに合理的ですが、こういった部分のデリカシーの足りなさは、かなが指摘した欠点なのだろうと思います。
そして哲哉自身、何でも自分自身を簡単に超えていく重蔵に対して、嫉妬のような感情を溜めていったのでしょう(「ライブ・ア・ライブ」のストレイボウのように)。
哲哉は最期、自分に怒りをぶつけた重蔵に対して満足そうにします。
綺麗ごとばかりでことごとく成功してきた重蔵が、親友である自分を殺して手を汚したということに満足できたのかもしれません。
重蔵が、自らの悪意を意識しながら他人を蹴落とす選択をして、哲哉と同じところに来たのだと思えたのかもしれません。
最期、哲哉が何を言おうとしたのかははっきりとわかりません。
「もしお前が俺を許していたら、その時こそ俺はほんと……おま…に…」という感じのセリフでした。
重蔵が許さなかったことで満足していたので、許していたのなら不満だったということなのでしょう。
したがって、その時こそ俺は本当にお前を憎んだ、というような意味合いのセリフだったのだろうと推測します。
とりあえず、本作の前作にあたる「流れ落ちる調べに乗せて」の方も、今後プレイしてみようと思います。
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